MT教習がなくなる!?2025年4月の法改正

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本当はやめたかったMT教習

需要の低下が著しいMT免許⋯。私が従事している指定自動車教習所でも時間帯によっては「MT車の予約がゼロ!」ということも珍しくありません。一方でAT車においては数週間、数ヶ月先まで予約が取れず、「教習生がいなくて稼働しないMT車・台数が足りなくて予約が取れないAT車」という慢性的な問題を常に抱えている状態です。

しかしながらこれらに対する解決策はかなりシンプルです。

  • ①純粋に教習車の台数を増やす
  • ②使わないMT車をAT車に代える

という2つのパターンが考えられます。指定自動車教習所の場合はコースの広さに対する稼働台数の制限やコスト的な問題もあり、①の台数を増やすことは現実的ではありません。そもそも国の業務を委託されているだけの民間企業なので、やみくもに教習車の台数を増やしてしまえば最悪の場合経営破綻を起こしてしまう可能性があります。

逆に②のパターンであれば稼働台数に抵触せず、使わないMT車をAT車に代えることによる稼働台数の増加に繋げることもできます。しかしながら今までこれだけシンプルな解決策を実行できなかったのは「(MT車を)本当はやりたくないけど教習所である以上はやらなくてはいけない」という教習車業界に蔓延る大義名分のため。

指定自動車教習所の看板を背負っている限り「うちはMT教習やめます!」とは言いにくい空気が漂っていたのですが、これが国が決めた法改正ともなれば話は別です。合法的にMT車の比率を大幅に減らすことができるので、顔には出していませんが指定教習所に関わる職員にとっては思わず「ナイス!」と心で叫んでしまいそうな状況でしょう。

ようやく法律が現実の状況に追いついてきた状態と言えます。

法改正後もMT免許を取れなくなるわけではない

意外と認知されている方が少ないのですが、現行法においてもAT限定免許をMT免許に切り替える方法があり、この方法を「限定解除」と言います。AT限定免許を取得している状態で限定解除を申し込み(入所手続き)、所内教習を最低4時限修了し、卒業検定に合格することで限定解除の卒業証明書を取得できます。

この卒業証明書を持った状態で免許センターに行くことによりMT免許に上書きすることができるのです(同時に免許証記載の「AT車に限る」表記は抹消されます)。2025年4月の法改正後は既存のMT教習をなくして従来の限定解除に一本化するイメージとなります。これにより本当に必要な人にしかMT免許を配分させない仕組みが構築されるのです。

法改正後のMT免許取得方法

現時点でMT免許を取得する為には、おそらく従来の限定解除に近い状態で教習を行うことになります。少しだけ違うのは「免許センターに足を運ぶ回数」です。法改正前はAT限定免許を取得した状態でないと限定解除を受けられませんでしたが、法改正後はAT限定免許の卒業証明書があればそのまま続けて限定解除のカリキュラムを行うことができます。

つまり2025年4月の法改正後は、MT免許を取得する際も路上における教習を一切行わないことになります。MT車で路上教習を行いたい場合は法改正前に教習所に入所する必要があるのです。

法改正による影響

この法改正により「AT免許が主流」という図式がより分かりやすくなる為、さらなるMT免許取得者人口が減少することが予想されます。これに伴い段階的ではありますが、中型自動車免許、大型自動車免許にもAT限定免許が追加される予定です。これは物流問題におけるドライバー不足の解消を視野に入れたものになります。

YouTubeでも「物流業界の悲鳴!1日200個配達の過酷労働!」というタイトルが頻繁に表示されるように、あえて運送業者になりたいと思えるような動機が見つけづらい状況です。つまり物流の要である運送車両(主にトラック)が従来通りMT車であり続けるなら、今後さらに減少するMT免許取得者を確保することが難しくなります。

それでも整備士資格を目指す人などにとっては一定の需要があるかもしれせんが、少なくともしっかりとした動機がなければMT免許を取得する必要はほとんどありません。「万が一何かあったら⋯」と思ってMT免許を取得するくらいなら、逆に「万が一必要になってから」取得したほうがより賢明であると言えるのです。

法改正による最大のメリットは、必要のないMT車をAT車に変更することにより、教習所業界最大の繁忙期である2月〜3月における混み具合を少なからず解消させることができることです。たった2台AT車に変更するだけでも1ヶ月あたり平均520時限分(1日10時限教習+26日間稼働した場合)の予約枠を確保することで可能です。

簡潔に言えばAT免許取得者にとっては520時限分の予約が開放されたことになるので、今まで以上に予約が取りやすくなることが予想されます。しかしながら法改正の影響によるMT免許の需要低下に起因して、相対的にAT免許取得者が増加することで「プラマイゼロ」になるのではないかという意見もあります。

いずれにせよ2025年4月の法改正は自動車教習所業界でもかなり大きな変化であり、実際に蓋を開けてみないと分からない部分があります。これから免許を取得する方は今後の動向を見ながら入所時期も考慮したほうが良いでしょう。