超重要!胸骨圧迫とAEDは用途が違う

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胸骨圧迫とAEDの正しい理解

以前ニュースで「救急隊員がAEDのバッテリーを忘れる、○○代男性死亡!」という見出しの記事を発見したのですが、内容的にはあたかも「AEDのバッテリー忘れが死亡の原因」のように取り上げられていたので皆様に誤解を与えぬよう正しい知識をお伝えしたいと思い当記事の作成に至ります。

同様にAEDに対する過度な期待から「AEDさえあればなんとかなる」といった考えは非常に危険です。そもそも自動車教習所や消防署で習う胸骨圧迫は「脳に酸素を送ること」が役割であり、AEDは「震えた心臓(心室細動)を元に戻す」ことが役割です。つまりどちらが欠けてもいけないが正解です。

この意味を誤解してAEDが到着するまで何もしない…或いはAEDを準備している間に胸骨圧迫をやめてしまう状況が多く発生しており、本来助かる見込みのあった命が残念ながら失われてしまうケースが少なくありません。心肺停止を早急に見極め、胸骨圧迫を開始する時期が直接生存率に関わるのです。

胸骨圧迫

人命救助の基本中の基本が胸骨圧迫です。これを正しく行うことにより意識不明者(心肺停止を主な要因とする)の生存率を大幅に確保することができます。そもそも心臓は脳に酸素を送るために機能しているのですが、脳は酸素がなければ数分で死滅してしまうほど極端に脆い臓器なのです。

逆に言えば心臓が動かなくても胸骨圧迫により脳に酸素を送り続けることさえできれば脳が死滅するリスクを軽減させることができます。福島第一原発が水素爆発を起こした根本原因は津波による電力の喪失ですが、電力が心臓であるなら何らかの手段で冷却ができれば爆発を防げたことになります。

しかしながら現在の技術では冷却能力を失った超高温の原子炉を外部から冷却できるようなオーバーテクノロジーが存在しないため水素爆発は不可避でした。しかしながら心肺停止における胸骨圧迫は少しの訓練を受けるだけでも人命を救助できるヒューマンテクノロジーがあるのです。

AEDは基本的に自分の知るテリトリー以外はどこにあるのか分かりません。みなさんは買い物や電車に乗るときにわざわざAEDの位置を確認しているのでしょうか?日頃から確認しているのなら素晴らしい意識をお持ちの方だと思いますが、おそらく多くの方はAED自体を意識したことがないと思います。

消防庁のデータでは心肺停止後に何もしなかった場合、4分経過時で生存率は20%、8分後には生存率が10%であるとされています。胸骨圧迫を行った場合は4分経過時で50%の生存率です。つまりAEDを探している時間があるのなら胸骨圧迫を少しでも早く行うべきなのです。

かと言ってAEDが不要なわけではありません。万が一心室細動を起こしている状態であればAEDによる蘇生が期待できるので、他にも周囲に人がいた場合は胸骨圧迫を行いつつAEDを持ってきてくれるよう頼むようにしましょう。これらの内容は教習所の応急処置講習でも説明されると思います。

基本的に胸骨圧迫を中断するタイミングはAEDによる心電図の計測と電気ショックを与えるときだけです。それ以外のタイミング…例えばAEDの準備やそれに伴う服を脱がせる状況であっても胸骨圧迫は続けなければなりません。胸骨圧迫は非常に体力を伴うので周囲に人がいれば協力してもらいましょう。

AED(自動体外式除細動器)

AEDを簡潔に説明すると「心室細動が生じている心臓に電気ショックを与え、正常な心拍リズムに戻すことを試みるための装置」のことです。基本的に心臓は外部性のショックではない限り、いきなりピタっと止まるのではなく心室細動という心臓が小刻みに震える状態が発生します。

この心室細動が発生しているあいだにAEDを使用することで蘇生率を大幅に向上させることができるのですが、一方でAEDのシステムを理解せずに使用してしまうと救命措置の判断を誤ることにも繋がってしまう恐れがあります。念頭に置くべきことはAEDはあくまで「心室細動」にしか効果がない点です。

そもそもAEDはどのように使うのでしょうか?

実際のところは私が使い方に関する説明をしなくても、誰でも理解できるように音声ガイダンスを流してくれるのであえて説明はしません。重要なのは電極パッドを張り付けた際の音声ガイダンスです。AEDは基本的に以下の2通りしかアナウンスをすることがありません。

  • 充電中です…体から離れて下さい(心室細動が生じている)。
  • 電気ショックの必要はありません(心臓が完全に停止している、或いは正常に動いている)。

特に気をつけたいのは後者の「電気ショックの必要はありません」のアナウンスです。これを聞いて「心臓が正常に戻った」と勘違いしてしまう方が少なくないように思います。前述したようにAEDは震えている心臓にしか作用しません。すでに止まっている心臓に対しては何の効果もないのです。

ここで安心して胸骨圧迫をやめてしまうと脳に酸素が供給されなくなり、脳が死滅してしまうと日本の法律上死亡扱いになります。救急隊員はすでに死亡している人間を生き返らせることはできません。今目の前にある命を救うことが救急隊員の役目であり、そのためには命を繋げていく必要があります。

これが命のリレーです。

大切な人を失う立場になることで人命救助の大切さが理解できる

私個人の意見としては、人の命を守る応急救護措置を教習所ではなく義務教育として取り入れるべきだと考えています。そもそも教習所で応急救護講習が行われるのは日本における免許取得人口が多いからです。それなら義務教育のほうが取りこぼしがないように思えるのは私だけでしょうか。

「人の命を救う」となるとなかなか現実味を帯びませんが、例えば自分の家族や大切なペットが交通事故などで生死の境を彷徨い、それが誰かの応急処置によって無事に命が助かったのなら、あなたはその人に対して心からの感謝を伝えるはずです。逆にあなたの知識と行動力が誰かを救うこともできます。

自動車教習所や消防署、赤十字の講習会等で実施している心肺蘇生法は、誰でも簡単に習得できる割に人の生存率を大きく向上させることができます。教科書にも記載されている「強く、早く、絶え間なく(胸骨圧迫)」を意識し、素早く救助を行えるだけの行動力も備われば人の命は多く助かるはずです。